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眠れない夜は体を脱いで / 彩瀬まる

最近こっちに本の感想書いてなかったなーとふと思い出し、久々に書いてみる。というのも、bookmeterを使いだしてからは250字がなかなか丁度良くて長々書きたい気持ちが湧かなくなっていたのだけれど、今回の作品はもう少し書きたくなった。

彩瀬まるさん著「眠れない夜は体を脱いで」

あらすじ

自分の顔がしっくりこない男子高校生。五十過ぎに始めた合気道で若い男の子とペアを組むことになった会社員。恋人の元カノの存在に拘泥する女子大生。妻も部下も、なぜ自分を不快にさせるのかと苛立つ銀行支店長。彼らは「手の画像を見せて」という不思議なネット掲示板に辿り着く……。「私」という違和感に優しく寄り添う物語。

(眠れない夜は体を脱いで (中公文庫) | 彩瀬 まる |本 | 通販 | Amazon より引用)

 

待ちに待った文庫版。幸運にもサイン本をゲット。嬉しい。いつも以上にドキドキわくわくしながら読み始めたけど、すぐに彩瀬さんの世界にのめり込んでいった。なんでなんだろう…うまく説明出来ないし、他の人からしたら何がそんなに良いのか分からないって気持ちも理解出来なくはないんだけど、私からすると彩瀬さんのお話って他と全然違う。

私と同じ、いやそれ以上に読書家の母とは読書の趣味もなかなか合うから本棚もシェアしているようなものだし、何か読んだら必ず語り合う。それぞれが好きな本や作家さんを見つけたらほぼ毎回読む。当然彩瀬さんを母にも薦めたわけなのだけれど、母にはそんなに響かなかったらしい。良いねとは言ってくれたけど、そこまでかな?って。うーん難しい。どこが魅力なの?何が彼女の特別なの?と聞かれると正直私は答えられない気がする…。

この魅力を言語化出来ないことが本当に悔しいけれど、そういう、説明出来ない特別なものってあってもいいよな~って思う。そう思わせてくれたのも彩瀬さんだったりするのかも。そして私には彩瀬さんの、厳しくて優しいお話が疲れた時辛い時すごく効く。

 

「小鳥の爪先」

個人的に1番気に入ったお話がこれ。綺麗なお顔の人にだって、人にいいねと言われる顔にだって、そりゃあコンプレックスみたいなものはあるよね。それはそれで辛いんだろうなあと、分かっちゃいたけど、和海ほど苦しんでいるとは思ってあげられてなかったかな。全然好きになれないものや、自分がたくさん頑張ってきたことを他者から適当に羨ましがられることは本当に辛い。彼らはきっと考えられないんだろうけど、言われる側は悔しくってたまらないのだ。そりゃネットの掲示板に殴り書きしたくもなる。このお話は、和海が100%スッキリ出来るような世界に変わったり言い返してやれたりするほど優しくない。世界は何にも変わらない。でも、ちゃんと分かってくれる人や、寄り添ってくれる人はいる。和海がそんな人を見つけられたことが実は私にとってもとんでもない救いになった。和海はあんな素敵な女性に出会えたけど、私もいつかはそんな人に出会えるのかなあ。

(あとはシンプルに男子学生が先生を真面目に好きになっちゃうのなんか良いんだよな)

 

「あざが薄れるころ」

ジェンダーに興味があるので、彩瀬さんが時々テーマにしているとなんだか嬉しくなったりしてたけど、今回もなかなか痺れた。は性自認や性趣向とはまた少し違った切り口だった。きっと世の中こうした考えの人はそれこそ男女問わず少なくないんだろうな。まだまだ現代の日本社会はこうした人々にとって過ごしやすい環境には近づけていないように思うけど、いつかそんな社会を作るためには私たち1人1人の意識が大切になると思った。

 

「マリアを愛する」

霊ものって全然理解も想像も妄想も出来なくて苦手なんだけど、このお話は嫌いじゃなかったな。前半いろんな人から見た"マリア"を見せて、まるでみんなが大好きな理想の女性"マリア"を想像させてから、霊として出てきたなんでもない、きっとどこにでもいる本当の"マリア"が出てきたの時のギャップみたいなものが生じたのはきっと彩瀬さんの作戦だ。「あれ?マリアってこんな感じなの?」っていう戸惑いみたいなものもありながら読み進めていくと、レッテルをはってしまうこととか死によって美化されることとかまで考える。

 

「鮮やかな熱病」

主人公は今までと180度変わって昔の頭の硬いおじさん。全く共感出来ないのにそこまでイライラすることもなかったからやっぱりテンポが良いんだろうな。思うことは色々とあるし、今後の主人公を考えてもスッキリとはしないけど、いい終わり方だった。何よりいいお友達だなあ。

 

「真夜中のストーリー」

今までに読んだことのないお話。次に何が起こるのか本当に予想がつかなくてドキドキしながら一文一文丁寧に読んでいった。主人公の考えすぎてしまって行動にも言動にも活かされない不器用さが可愛くもあり、読者としてはハラハラさせられる。いつも言葉が足りてなくて、きっと勘違いされ続けてきたんだろうな…と感じていたからこそ、相手の名前も知らない女の子がとる距離感が彼によってとても丁度良くて安心した。

そして、このお話のエンディングはしっかりとこの短編集をシメてくれて、とても気持ちよく読書を終えられた。 

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